仙台高等裁判所 昭和25年(う)269号 判決 1950年11月25日
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
判決要旨
一、銃砲等所持の許可は所謂属人的であつて、その効力は許可を受けた特定人に限定せられ他に及ばない。
一、刀剣審査会の鑑定を経て一旦許可の与えられた刀剣についてはその許可は物そのものに付属し新なる所持の許可を必要としないものと信じ、或は斯る刀剣については許可の願出をすれば必ず許可を受け得られるものと確信していたとしても右は単なる違法認識の欠如で犯罪の成立に影響はない。
一、進駐軍による接収は管理のため占有移転に止まり所有権の移転を来たさない。従つて接収解除により返還を受けることもあるから特段の事情の認められない限り該物件は接収者の手許に現存するものと推定されるので接収物件も没収の対象となる。
理由
一、銃砲等所持禁止令はその第一条において同条但書所定の事由のない限り広く一般に銃砲等の所持そのものを禁止していることが明かであるから、その所持の許可は属人的であつて、この効力は許可を受けた特定人に限定せられ他に及ばないものと解する。
一、刀剣審査会の鑑定を経て一旦許可の与えられた刀剣については其の許可は物そのものに付属し新なる所持の許可を必要としない。仮りに然らずとするも斯る刀剣については許可の願出をすれば必ず許可を受け得られるものと確信し、而も此の確信が何人を被告人の地位においたとしても持つであろうと思われる確信であつて、それ以上を期待しえないところのものであるから原判示十八本の刀剣については罪を犯す意なき行為で結局その行為は違法の認識を欠くものであるとしても右は単なる違法の認識の欠如で犯罪の成立に影響がなく且刀剣審査会の鑑定を経ているからとの事由だけでは被告人の誤信に過失なしとは謂われない。仮令被告人に違法の認識がなかつたとしても右につき犯罪の成立ありとした原審の措置は正当である。
一、進駐軍による接収は管理のための占有移転に止まり所有権の移転を来さないものと解すべきであるから原判決において没収の言渡をした日本刀備前正恒作一本他六本の刀剣は接収のためトロツトマン中尉に引渡されていることは明かであるが之により被告人の所有関係に何等の影響がないから右を被告人の所有に属するものとして没収の言渡をしたのは正当である。次に没収は執行不能の物件については之が言渡をなしえないものと解すべきであるが進駐軍による接収は管理のための占有移転に過ぎないのであるから接収解除により返還を受けることがあるべく従つて特段の事情の認められない限り該物件は接収者の手許に現存するものと推定するのを相当とする。なお没収は罪となるべき事実に関するものでないから必ずしも厳格な証明を要するものではなく一応の証明があれば足るのであるから原審が右の推定に基き判示没収の目的物件について没収の言渡をしたことは正当である。